切ない恋の物語『Nのために』。
誰が誰のために？誰が誰を愛していたのか？犯人は？病気は？と色々疑問が残る小説でもあります。
その疑問をこのブログでは考察・解説していきます。
まだ未読の方はあらすじだけ読んでみてください。
続きが気になったあなた、この疑問はどうやって生まれるのか知りたいあなたは、ぜひ小説を読んでみてください。
心に跡が残る切ない恋の物語を体験してみてください。
本記事では、『Nのために』のあらすじとネタバレ解説、感想について、私が読んで感じた魅力を余すことなく伝えていきますが、
『Nのために』を全て読めて、湊かなえさんの小説『告白』、『山女日記』などの人気本も
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『Nのために』簡単なあらすじと登場人物
超高層マンションの一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。
現場に居合わせたのは20代の4人の男女。
それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。著者初の純愛ミステリー。
事件の簡単なあらすじ
「野バラ荘」のボロアパートで、台風の浸水をきっかけに出会った杉下希美、安藤望、西崎真人の三人。
杉下と安藤は石垣島で野口夫妻と出会い、将棋を通じて親交を深め、安藤は野口貴弘と同じ会社に就職します。
彼らは野口夫妻の高層マンションで将棋を指し合い、奈央子とも仲良くなっていきます。
しかし、奈央子が精神的に不安定で外出しなくなり、ドアのチェーンも取り付けられるようになっていしまいます。
安藤は奈央子の不倫を職場で聞き、奈央子が貴弘によって閉じ込められているのではと疑念を抱きます。
そんな時、杉下の高校生の時の同級生の成瀬がバイトをしているレストランが奈央子の元気を取り戻す手助けになりそうと杉下が提案し、貴弘も快諾します。
成瀬のバイト先のレストランの出張サービスを頼んだ日に安藤と貴弘は将棋の対局を控えていました。
早く到着してしまった安藤に貴弘は嘘をつき、ラウンジで待つように頼みます。
そしてこの後、貴弘と奈央子が血まみれで倒れており、西崎真人が立っている姿を杉下が目撃することになるのです。
この後、真実が明らかにされ、物語がさらに複雑に展開していきます。
『Nのために』登場人物
- 杉下希美（すぎしたのぞみ）：大学4年生（22歳）。「野バラ荘」というアパートに住んでいる。将棋が趣味。清掃会社でアルバイトしている。
- 成瀬信司（なるせしんじ）：大学4年生（22歳）。希美の高校の時の同級生。フレンチレストラン「シャルティエ・広田」でアルバイトをしている。
- 安藤望（あんどうのぞみ）：M商事営業部勤務（23歳）。学生時代、希美と同じアパートに住んでいた。
- 西崎真人（にしざきまさと）：大学4年生（24歳）。自称、作家。奈央子に思いを寄せる。
- 野口奈央子（のぐちなおこ）：野口貴弘の妻（29歳）。夫からDVを受け、それを真人に相談する。
- 野口貴弘（のぐちたかひろ）：安藤の上司で奈央子の夫（42歳）。
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『Nのために』結末に向けてネタバレ考察
ここからはネタバレを含みますので、未読の方は飛ばしてください。
それぞれのNのために
題名にもなっている『Nのために』とは誰が誰のためにを指しているのでしょうか？
それぞれの登場人物の「Nのために」をみていきます。
杉下のNのために
安藤望のために
ずっと乗ってみたかった清掃のゴンドラに乗せてくれ、一人では手の届かない場所に連れてきてくれた安藤。
そんな安藤の将来の妨げになってはいけないと思い、奈央子を連れ出す計画に安藤を誘いませんでした。
さらに、安藤が自分のせいで僻地に飛ばされりないよう、貴弘に不倫相手である西崎が来たことを教え、傷害罪で貴弘が逮捕されるように誘導。
成瀬信司のために
島での生活で心が壊れかけて限界だった時に、同じ気持ちを共有し、成瀬の実家が火事になった時、希美の心の中にあるお城や父親、母親を燃やしてくれたと思います。
杉下は成瀬のためにアリバイを作って彼は放火していないと嘘をつき、罪を共有します。（本当は成瀬は放火していません）
奨学金の用紙を渡して島から出る助けをしました。
西崎真人のために
『灼熱バード』を読んで、西崎も自分と同様に心に深い闇を持っていることを知ります。
だから、杉下は西崎のために奈央子を連れ出す計画に加担したのです。
安藤のNのために
杉下希美のために
安藤は杉下に恋愛感情があり、杉下のために窓清掃用のゴンドラに乗せました。
西崎のNのために
西崎は貴弘からの虐待に苦しむ奈央子を助けるために、作戦を考え実行します。
そして「奈央子を殺人犯にしたくない。殺人の動機が愛なんてダメだ。俺が犯人になれば、動機は復讐になる」と言い、殺人を自供し、10年服役します。
成瀬のNのために
杉下希美のために
一人しか受けることのできない奨学金の申請書を杉下がくれたため、成瀬は東京の大学へ進学することができました。
そのため、フレンチレストラン「シャルティエ・広田」の出張サービスを担当していた成瀬は、杉下から奈央子の救出作戦への協力を要請されたとき、協力しました。
伏線の回収
この物語には何度か「罪の共有」という言葉が出てきて、この言葉が伏線となっています。
「罪の共有」とは、誰にも知れず、相手にも知られずに、相手が犯した罪を半分引き受ける事です。
杉下は密かに相手の罪を共有し、身を退く事が「究極の愛」だというます。
最初は「杉下と成瀬の過去」を指す言葉でしたが、「西崎と奈央子」「安藤と杉下」「杉下と貴弘」「杉下と西崎」のそれぞれに当てはまる言葉となっていきます。
物語の最後・本当の犯人は誰？
野口夫妻を殺した犯人として西崎が逮捕されますが、彼は誰も殺していません。
奈央子のために貴弘を殺そうと覚悟を決めていましたが、奈央子が彼にそれをさせませんでした。
貴弘を燭台で殴ったのは奈央子でした。
奈央子が貴弘を杉下に取られると思い、貴弘を独占したいために貴弘を殺したのです。
そして、奈央子は包丁で自分の脇腹を刺して自殺しました。
『Nのために』疑問を解説
ここからは『Nのために』の疑問を解説していきます。
奈央子が杉下希美になぜドレッサーを送ったのか？
杉下が豪華なドレッサーに見とれているのを見て、奈央子はそのドレッサーを杉下のアパートに配達させます。
しかも杉下には何も言わずに。
さらに、奈央子は杉下のオンボロアパートを訪問したことがあるのです。
だから、小さな部屋に大きなドレッサーを置いたら邪魔になるはずなのに、奈央子はそうは考えません。
性格に難があることがわかります。
放火の犯人は？
成瀬の実家の料亭「さざなみ」は不況のあおりを受けて経営が悪化し、パチンコ屋に売却され、成瀬の家族がアパートに引っ越した日に料亭は火事で燃えます。
状況証拠としては、成瀬が放火犯人と疑われても仕方ない状況でした。
しかし、放火したのは成瀬ではありません。
犯人は明らかになっていませんが、放火であることは事実のようです。
杉下希美の病気は？
事件から10年後、杉下は余命半年の余命宣告を受け、病院に入院しています。
しかし、物語の中では、病名は明かされていません。
何の病気か気になるところではありますが、ストーリーに大きな意味を与えません。
杉下希美は誰が好き？
物語でははっきりと言及されていませんが、「罪の共有」が「究極の愛」であるというのであれば、杉下の好きな人は、成瀬であると考えられます。
ただ、杉下は両親から受けたトラウマで恋愛については冷めているとも考えられます。
安藤と西崎はどちらも大事だけど、男女としてではなく、同士のような感じなのだと思います。
『Nのために』感想
「Nのために」とは一体誰のためになのか？と考えながら読み進めていましたが、登場人物のほとんどに「N」がついていて、特定できません。
でも、それでいいのです。
それぞれが、それぞれのNのために、守り、罪を重ね、嘘を重ね、最終的に幸せになったとは言えない結末が待っています。
それゆえに切ない読後となります。
一見歪んで見える愛であっても本人は真の愛だと信じていることが、胸を締め付けます。
過去の出来事を引きずりながら、傷を隠しながら、誰かのために必死に生きたことが、最後じんわりと感動の波を誘います。
『Nのために』評価・レビュー
小説『Nのために』のレビューを紹介します。
事実は、１つ。
Amazonカスタマーレビューより
でもそれぞれの視点によって、事実の見え方は変わる。
そして当然「愛」の表現も変わる。
むずかしいテーマを、むずかしいプロットを使いながら、
それを組み立てていく筆力は、相変わらずでした。
あらゆる伏線を回収していくのが読んでてとても気持ち良い。
Amazonカスタマーレビューより
語り手が変わっていくので最初は難しいと思いましたが、その人しか知らない部分を知っていくことで犯人を推理していくのが楽しかったです。
Amazonカスタマーレビューより
２回目読んで、やっと伏線が各所にあったことに気づいて、小説を理解し、ほっとして、ひたすら感動しました。Nのために、罪を分かち合う、それぞれの大切な人のために。それぞれがそれからの人生を悲しすぎる子供時代から逃げられるように。本当に究極の愛の形を湊さんが書くとは思わなかったので、驚きましたが、余りに心の芯まで一人一人の登場人物の、全力で生きて、それでも絶対的な哀しみを抱えている、その哀しみや苦しみが人が人を愛せるようにしているようにも感じました
Amazonカスタマーレビューより
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『Nのために』まとめ
切ない愛の物語。
誰かのためにやったことは、本当に誰かのためになったのだろうか？
それぞれの心の傷を見つめながら、本を読み終わった時には、色々と考えを巡らせる小説でもありました。
『Nのために』の本当の意味を探しに、ぜひ読んでみてください。
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