読む前の自分には戻れない
本当だった・・・。もう戻れない・・・。
もう「多様性」について軽々しく語れない。
私にとっては衝撃的な1冊となった『正欲』。
多様性の尊重が叫ばれる世の中、その主張している多様性は本当に正しい多様性なのだろうか?
そもそも正しい多様性なんて存在するのだろうか?
本記事では、『正欲』のあらすじとネタバレ考察・解説、感想について、私が読んで感じた魅力を余すことなく伝えていきますが、
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本『正欲』の概要
あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。しかしその繋がりは、”多様性を尊重する時代”にとって、
ひどく不都合なものだった――。「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。
著者 | 朝井リョウ |
出版社 | 新潮社 |
発売日 | 2021年3月26日 |
ページ数 | 384ページ |
正欲とは?正欲の読み方は?
正欲という言葉は、もともと存在しません。
作者の朝井リョウさんが創り出した言葉となります。
「〈正欲〉という題名は執筆前から決まっていました。欲はすごく個人的なことで、正はすごくパブリックなイメージの文字。そのアンバランスさが居心地の悪さを醸し出してくれるかなと。性欲はずっと書きたいテーマだったのですが、それをテーマに据えたとして説得力が出る自分なのかと、ずっと躊躇していました」
インタビューより
正欲は「せいよく」と読みます。
性欲と重なる音に「正」の字を当てはめたタイトルにしたことで、性的欲求だけではなく、生きる上でおろそかにできない承認欲求や生存欲求のような欲も俎上に乗せた。たった2文字で、正しい欲とは何か、それを誰がジャッジするのか、と突きつけられているかのようだ。
本『正欲』のあらすじ(ネタバレなし)
『正欲』は、以下の3つの物語が織り交ざりながら進行する群像劇です。
これらの物語は、人々が生きにくさを抱えながらも、ある出来事をきっかけに繋がり合い、自己を見つめ直す過程を描いています。
さらに、物語はある事件を経て、多様性を重視する社会に対して疑問を投げかけます。
検事・寺井啓喜の物語
正義感の強い検事の寺井啓喜は、不登校の息子・泰希に学校復帰を望んでいます。
しかし、泰希は教育のあり方に疑問を抱き、自身もYouTuberとして活動を始めます。
寺井は泰希の行動に反発しながらも、彼の成長に向き合い、家族の絆を取り戻すために奮闘します。
寝具店の店員・桐生夏月の物語
寝具店の店員である桐生夏月は、一人でいることを好む孤独な性格です。
彼女はある秘密を抱えながら、同級生の佐々木佳道と再会し、独特な絆を感じます。
夏月と佳道は水に興奮し、互いを理解しあう存在として共に時間を過ごすことで幸せを見出していきます
学祭実行委員・神戸八重子の物語
学祭実行委員の神戸八重子は、ミスコンテストのあり方に疑問を抱き、多様性を重視するイベントを提案します。
彼女は男性からの視線に怯える一方で、ダンスサークルの諸橋大也という人物には安心感を覚えます。
八重子は大也との関わりを通じて、自己成長と自己受容の道を歩んでいきます。
本『正欲』の主な登場人物
- 寺井啓喜(てらいひろき):検事。小学生の息子は登校拒否でYou Tubeを配信している
- 桐生夏月(きりゅうなつき):地元のモールにある寝具店で働く。中学生の時に自分の性癖に気づく
- 神戸八重子(かんべやえこ):男性恐怖症の大学生で、学園祭の実行委員を務める
- 佐々木佳道(ささきよしみち):食品会社勤務の会社員。夏月の同級生。
- 諸橋大也(もろはしだいや):ダンスサークル所属の美形大学生。特殊性癖の持ち主。
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本『正欲』のネタバレ考察・解説
ここからは『正欲』のネタバレありの考察・解説になりますので、未読の方は飛ばしてください。
水に欲情するマイノリティの視点とフェチ
この小説では、夏月、佳道、大也のフェチ(性的嗜好)として「水」に対する性的興奮があり、それが物語の中心となっています。
彼らは自分が他とは異なるフェチを持っていることに苦しみ、疎外感を感じています。
フェチそのものは悪いものではありませんし、犯罪につながらない限り問題はありません。
しかし、人々は自分の理解範囲を超えるフェチに対して「変態」と罵倒し、それが当事者たちに苦痛を与えることもあります。
物語の冒頭で「明日死にたくないことを前提に世界は動いている」と述べられていて、多様性を理解することは簡単ではないと、読者一人一人に問いかけています。
物語の最後に起きた事件の結末を解説
事件は矢田部洋平が、児童買春容疑で逮捕されるところから始まります。
彼はネット上で「古波瀬」という名前を使っており、水に濡れた人物に興味を持っていたことが判明。
矢田部の行動により佳道と大也も逮捕される結果となります。
彼らの水への特殊な性的興奮嗜好が誤解され、児童ポルノを助長する集まりを開催しているという疑いがかけられたのです。
警察による捜査の過程で、佳道と大也のスマートフォンやコンピュータから児童の画像や動画が発見されました。
この事実が浮上したことで、彼らは児童ポルノ所持の容疑で起訴されることとなりました。
佳道と大也は取り調べにおいて、画像や動画の所持については認めたものの、それが児童ポルノであることを意図的には把握していないと主張しました。
しかし、この主張は理解されませんでした。
社会では、事件の報道により佳道と大也は犯罪者として非難され、彼らに対して排除する声が高まっています。
彼らの特殊な性的嗜好が理解されず、多様性を受け入れる現代の風潮とは対立する形となってしまったのです。
このような状況の中、佳道は落ち込んだ心境でいました。
自身が起訴され、社会的に非難される中で、彼の特殊な性的嗜好が誤解されていることに苦しんでいたのです。
彼は自分の本当の意図が伝わらないことに絶望し、無力感に襲われました。
同じく逮捕された大也もまた、黙秘を貫いており、何かを隠しているのではなく、どうせ言っても理解してもらえないという諦めの念が感じられました。
彼も佳道と同様に、自分の内面を誤解され、孤独感に苛まれていました。
取り調べを担当している寺井啓喜検事は、佳道と大也の諦めた表情を見て、自身の家族との関係を重ね合わせていました。
不登校の息子・泰希と向き合う妻・由美は、自分に対して何を言っても理解してもらえないという諦めを抱えていたのです。
一方、夏月は佳道が逮捕されても冷静な態度を取っていたことに、啓喜は当惑していました。
彼女は「パーティー」の存在や目的を知っており、佳道に対して「いなくならないから」と伝えてほしいと言います。
佳道も同様に夏月に同じメッセージを伝えたいと述べていました。
名言から考える『正欲』で伝えたかったこと
『正欲』には考えさせられるる名言が出てきます。
自分と違う存在を認めよう。他人と違う自分でも胸を張ろう。自分らしさに対して堂々としていよう。生まれ持ったものでジャッジされるなんておかしい。
清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉です。これらは結局、マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、話者が想像しうる“自分と違う”にしか向けられていない言葉です。
想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。そんな人たちがよく使う言葉たちです。
『正欲』より
まとも。普通。一般的。常識的。
自分はそちら側にいると思っている人はどうして、対岸にいると判断した人の生きる道を狭めようとするのだとうか。
多数の人間がいる岸にいるということ自体が、その人にとっての最大の、そして唯一のアイデンティティだからだろうか
『正欲』より
みんな本当は、気づいているのではないだろうか。
自分はまともである、正解であると思える唯一の拠り所が多数派であるということの矛盾に。
三分の二を二回続けて選ぶ確率が九分の四であるように、多数派にずっと立ち続けることは、立派な少数派ですらあることに。
『正欲』より
幸せの形は人それぞれ。
多様性の時代。自分に正直に生きよう。
そう言えるのは、本当の自分を明かしたところで、排除されない人たちだけだ
『正欲』より
多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。
自分の想像力の限界を突きつけられる言葉のはずだ。
時に吐き気を催し、目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。
『正欲』より
自分の想像できる多様性だけ礼賛して、秩序を整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな。
『正欲』より
このような名言からも分かるように、軽々しく多様性を分かったように語ることはできないなと感じます。
自分が想像できる多様性しか、理解することができず、想像できない多様性は無意識のうちに排除してしまっているのです。
表紙の意味を考察
表紙には、鴨が逆さになっている様子が描かれています。
表紙の鴨にはどんな意味が込められているのでしょうか。
鴨は落ちているように見えますが、よく見ると足を何かで縛られていて、吊るされているのだと分かります。
一見、落ちているように見える鴨は実は吊るされている、このことから分かったつもりでいる多様性は、本当は間違った認識なのだと言いたいのではと考えられます。
表紙の絵については作者は言及していないため真相は分かりませんが、私はこのように考察してみました。
本『正欲』の感想
自分がいかに浅い理解で「多様性」という言葉を使っていたのか、申し訳ない気持ちになります。
だからといって、全ての「多様性」を理解できるはずもありません。
理解したいと思うことすら、罪なような気さえしてきます。
読む前の楽観的な考えだった自分にはもう戻れません。
自分の理解を超える人たちの方が、自分が理解できる人たちより多いのでしょう。
ものすごい体験をしてしまったという言葉が『正欲』の感想に一番しっくりくると思います。
本『正欲』のQ&A
本『正欲』について、多く見られる質問にお答えします。
『正欲』は文庫化されている?文庫本はいつ発売?
『正欲』は2023年5月29日に文庫本が発売されています!
「つまらない」というレビューはある?
否定的なレビューはもちろんゼロではありませんが、他の書籍と比べると少ないなと感じました。
その中でも以下のような内容のレビューはいくつか見かけました。
この本で伝えたい内容は、今更「どうだ!」と言われるまでもなく(少なくとも私には)当たり前に感じました。
Amazon カスタマーレビューより
捉え方によっては、「当たり前のこと」をくどくどもう一度語っているように感じるようです。
読んで確かめてみてください。
私には、「多様性」を表面的にしか見ていなかったと考えさせられる1冊でした。
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本『正欲』まとめ
衝撃的な1冊だった『正欲』。
もう「多様性」を軽々しく語れないと思うとともに、理解しているとも簡単には言えないでしょう。
世界観が変わる読書は、色んなことを考えるきっかけをくれます。
「普通」なんて存在しない・・・。
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