他人の人生を歩んでいきたいと思うほど、無くしてしまいたい過去を持つある男。
ある男ほどでなくても、無かったことにしたい過去が誰でも1つや2るあるのではないでしょうか。
私にもそんな過去はありますし、幸せになるための試行錯誤を繰り返しなが、らどう生きるのか迷子になっていた時もありました。
でも、『ある男』を読むと、幸せな人生とは何なのか、自分の人生を生きるとはどういうことなのか、自分なりの答えを少しでも見つけることができます。
自分が愛していた夫は、全くの別人だった。
この衝撃な事実から始まる物語は、人を愛するとは一体何のかも深く考えさせられます。
本記事では、『ある男』のあらすじとラストのネタバレ解説、結末の考察と感想について、私が読んで感じた魅力を余すことなく伝えていきますが、
『ある男』を全て読めて、『ある男』の著者平野啓一郎の映画化された本『マチネの終わりに』などの人気本も
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小説『ある男』の登場人物とあらすじ
『ある男』の登場人物
- 城戸章良(きどあきら):在日3世で弁護士。かつての依頼者である里枝から亡くなった夫に関する調査を依頼される。
- 谷口里枝(たにぐちりえ):城戸が担当したかつての依頼者。亡くなった夫「大祐」の身辺調査を城戸に依頼する。
- 谷口大祐(たにぐちだいすけ):里枝の再婚相手。林業に従事していたが事故死する。大祐の戸籍を持っていたが、大祐ではなくXとする。
- 後藤美涼(ごとうみすず):本物の谷口大祐の元彼女
- 谷口恭一(たにぐちきょういち):本物の谷口大祐の兄。
- 城戸香織(きどかおり):城戸の妻
- 小見浦憲男(おみうらのりお):戸籍交換のブローカー
『ある男』あらすじ
愛したはずの夫は、まったくの別人であった――。
「マチネの終わりに」の平野啓一郎による、傑作長編。弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。
ところがある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実がもたらされる……。
愛にとって過去とは何か?
幼少期に深い傷を負っても、人は愛にたどりつけるのか?
「ある男」を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。第70回読売文学賞受賞作。キノベス!2019第2位。
城戸は大祐になりすました「X」が一体誰なのか、本物の大祐は今一体どこにいるのか?そもそも生きているのか?を調べ始めます。
まずは、大祐の元恋人である美涼を訪ねて話を聞くことにしました。
なかなか見えてこない「X」の正体を探るうちに、城戸は戸籍交換を仲介したブローカー小三浦にたどり着きます。
「X」も小三浦を通して戸籍交換をしたのかもしれないと考えた城戸ですが、なかなか真相は見えてきません。
「X」は一体誰なのか?
本物の谷口大祐はどこで何をしているのか?
この後、衝撃の過去と谷口大祐の現在が、城戸によって明かにされていきます。
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小説『ある男』ラストのネタバレ解説〜最後は一体どうなるのか?〜
ここからはラストに向けてのネタバレ解説になります。
未読の方は、気をつけてください。
ある男「X」の正体
城戸は「X」の悲しい出自と戸籍売買について知ることになります。
ある死刑囚の絵の展覧会で、「X」が描いたタッチと似ている死刑囚の絵を見つけます。
その死刑囚は、小林兼吉という一家惨殺放火事件を起こした犯人で、顔は「X」にそっくりでした。
戸籍交換のブローカーで詐欺罪で捕まっている小三浦の証言や過去の事件の詳細より、「X」の正体は死刑囚小林兼吉の一人息子原誠という男であると判明します。
原誠は殺人犯の息子として、子供の頃からいじめを受け、差別を受け続けていました。
どこに行ってもいずれ「殺人者の息子」という事実が露呈してしまいます。
こんな偏見の目で見られることに耐えかね、戸籍交換という犯罪を犯してまで、過去を消してしまいたかったのです。
原誠の人生
原誠はまっとうに生きているのに、父親の犯罪のせいで仕事は長続きせず、どこへ行っても殺人犯の息子というレッテルを貼られます。
殺人犯の息子として過酷な人生を歩んでいました。
自殺未遂も二度。
プロボクサーとして栄冠を掴めそうになっていましたが、世間に注目されることを恐れて試合を辞退します。
原誠が谷口大祐になっのは、別の人間として自分の人生をやり直したいという思いからでした。
城戸は原誠は原誠である限り、自分で自分を愛することができなかったのではと想像します。
原誠は生きるために戸籍交換をして生き直したのです。
そして、「自分もいつか父親のように人殺しになってしまうのではないか」
という思いから、里枝や子供達を愛したことで
「自分はこんなにも人を愛し大切にできる人間であり父親なのだ」
と自分を肯定できるようになったのでしょう。
複雑に行われた戸籍交換
最初から原誠が谷口大祐と戸籍交換したわけではありません。
戸籍交換はこのような経緯で行われました。
- 原誠(死刑囚の息子)⇄曽根崎義彦(ヤクザの息子)の戸籍交換
- 曽根崎義彦が使用していた原誠⇄田代正蔵(知的障害者)の戸籍交換
- 原誠が使用していた曽根崎義彦⇄谷口大祐の戸籍交換
このような戸籍交換を経て、最終的にこのようになりました。
元 | 今 |
原誠 | 谷口大祐 |
谷口大祐 | 曽根崎義彦 |
曽根崎義彦 | 田代正蔵 |
田代正蔵 | 原誠 |
この4人の人間の戸籍交換を城戸は解明しました。
真実を知った里枝と息子
城戸から真相を綴った報告書を受け取った里枝は、夫だった男の境遇を知って、なんて可哀想なのだと思いました。
そして、「一体、愛に過去は必要なのだろうか?」と自問します。
愛した夫は大祐ではなかったけれど、夫を愛し家族として過ごした3年9ヶ月は真実であり、幸せでした。
息子の悠人は父親である原誠を慕っていたので、事故死以後塞ぎ込んでしまいます。
悠人はお父さんが優しかったのは、自分が父親にして欲しかったことを僕にしてたんだと思うと言い、泣き出します。
成長している悠人を頼もしく思うとともに、必ず一生をかけて子供達を守っていこうと里枝は思うのでした。
小説『ある男』結末の考察と感想・評価
壮絶な過去を過ごしてきた原誠にとって、最後の3年9ヶ月が彼の人生における唯一の救いだったのでしょう。
城戸からの報告書の中にもこのような一文がありました。
亡くなられた原誠さんは、里枝さんと一緒に過ごした3年9ヶ月の間に、初めて幸福を知ったのだと思います。
『ある男』より
真面目に働き、家に帰れば妻と子供がいるこの普通の生活が、原誠にとっては心底の幸せだったのです。
戸籍交換という手段は、決して正しいことではありません。
本当の自分が何者なのかも分からなくなってしまいます。
里枝も自分の愛した人は一体誰だったのか分からなくなっていました。
しかし、原誠が谷口大祐として生き、里枝と結婚し家族を持ち普通の幸せを得ることができたのは偽りではなく、事実なのです。
原誠に騙されたのではなく、本当の愛だったということを最後に里枝は分かったのです。
愛だけが本当の真実だったのです。
また、城戸も「X」の真実に近づく中で、これまでにやり過ごしてきた自分自身の問題に向き合っていくことなります。
私も『ある男』を読みながら、自分自身の問題について、いつもより冷静に考えることができたのではと思っています。
また、登場人物に感情移入し共感していくことは、彼らの人生の傷を生きることに近いなとも思いました。
誰もが抱えているのです。
自分の人生を生きるとはどういうことなのか
この小説を「X」の正体を暴くミステリーだと思って読むとあまり面白くないと思います。
他人の人生を生きることしかできなかった「ある男」の心境と、人を愛するとは一体何を愛することなのかという、壮大なヒューマンドラマだと思って読むと心を打たれます。
小説『ある男』みんなの口コミ・レビュー
まずはよく見られた批判的な口コミ・レビューを紹介します。
いろんなところの説明は多いくせに、肝心なところに触れていない
Amazonカスタマーレビュー
少しストレスのたまる本でした。
平野さんの文体が自分には少し独特で読み進むのが遅くなった。でも、その独特の文体が話全体を良い意味で重くしている感じもした。
Amazonカスタマーレビューより
少し重たい粘着質な表現が見られ、あっさりと物語を読み進めたい人には、じれったく感じるのかもしれません。
しかし、実際の日常ってそういうものではないでしょうか。
あっさり物事が前に進むことは少なく、その時の心中は周りが思っているよりもずっと複雑なのです。
また、「伏線が全て回収されていない」というレビューも見かけますが、著者の平野さんがこのように回答しています。
次に良い口コミ・レビューを紹介します。
映画を観た後の原作本を購入しました。
Amazonカスタマーレビューより
若干、映画とは違う部分もありましたがさすが平野啓一郎、読めば読むほど面白くなりました。
社会性を含み、ただの物語ではないと感じました。
あまりに心中描写が上手なのと、読み手の実生活とのリンクのさせ方が上手なのとで、読む手を止めて目を瞑る事度々、うっすら涙ぐむ事度々…。読み終わるのが勿体無くて惜しみながら読み進めていました。
Amazonカスタマーレビューより
心の描写が長くもなく短くもなく、でも芯をつくような絶妙なタッチが読みやすく惹き込まれました。
Amazonカスタマーレビュー
過去に『マチネの終わりに』を拝読し、共感したり絶望したり…とにかくぐいぐい引き込まれましたが今回も本当に引き込まれてしまいました。読ませる作家さんですよね。
Amazonカスタマーレビューより
様々な人の心情に引き込まれて、いろんな傷に触れて、読後はそれぞれの心に残る物語になるという口コミ・レビューが多く見られました。
小説『ある男』がおすすめな人
- 惹き込まれる小説が読みたい人
- 無くしてしまいたい過去を持っている人
- 自分自身を生きるとはどういくことなのかと思う人
- 「ある男」の人生に興味がある人
- 映画化され話題の作品を読みたい人
- 本屋大賞ノミネート作品を読みたい人
小説『ある男』Q&A
小説『ある男』の疑問点について解説します。
『ある男』は実話?
小説『ある男』はこのような冒頭から始まります。
この物語の主人公は、私がここしばらく、親しみを込めて「城戸さん」と呼んできた人物である。
『ある男』序文より
序文では、「私」は小説家で「城戸」とはバーで出会ったとなっています。
そこで「城戸」から聞いた話を小説にしているようなニュアンスになっていますが、そもそも「私」が『ある男』の著者平野啓一郎であるとも「城戸」が物語に出てくる城戸であるとも言及されていません。
実話だと思わせるような文章になっていますが、それが実話であると確信できる部分は何もありません。
日々の出来事においても、確信できる事実とは一体何なのかを、ここでも説いているのだと思います。
『ある男』は文庫化されている?
『ある男』は2021年9月1日に文藝春秋から文庫本が発売されています。
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Audibleについての詳細はこちらのブログをどうぞ。
『ある男』の著者平野啓一郎の『マチネの終わりに』に関してはこちらのブログにまとめてあります。
『ある男』映画情報
映画『ある男』は2022年11月18日に公開されました。
- 城戸章良:妻夫木聡
- 谷口里枝:安藤サクラ
- 谷口大祐(X):窪田正孝
豪華俳優陣が演じる「愛」と「過去」をめぐる感動ヒューマンミステリーです。
小説『ある男』まとめ
他人の人生を歩むことでしか、幸せを手に入れることができなかった男を通して、自分自身を生きるとはどういうことなのか、深く考えさせられます。
もう一度ちゃんと自分と向き合えるきっかけにもなるかもしれません。
そして、今を強く生きる支えになる小説でもありました。
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